A・詩 

(2020.12.15 - 2022.8.26)

39追記・修正 2022.11.7

(2020.12.15 記)


*タイトルの「A・詩」のAとは、アグネスの意
2020.12.15 〜

最新更新 2022.11.7


1
共産党の大きな赤いモニターを、
嫌っていた活動家の名前は
アグネス・チョウ
応援したくなる人。
彼女は日本の文化が好きだとか、
おもしろいことを言う。
私は最近見た日本の映画のタイトルを思い出そうとした。

『そこのみにて光輝く』

映画の内容ではなくて
周庭のことを考えていた。

2
成り立たぬ追憶
そこに光が差し込まなければ、
屈折することはない。
明日が来る事もない。

3
彼女が時計を失ったせいで、
僕たちは時を失った。
電飾の季節は痛々しく、
プレゼントを探す事が出来ない。
待ち合わせの時刻に来ないから。

4
チョウとは日語で蝶のこと。
ひらひら、ひらひらと、
どこ行くの?
ひらひら、ひらひら
違います。
雑踏のなかで。

5
灼熱の、果ての、砂漠の国へ抱く羨望。
目覚めた後、暫しの間
身動きの出来ない、力ある何かのように。
舞い降りてきた。

6
放課後の教室の黒板は、
満たされぬうちに満たされていた。
彼女が席を外した時に、
昼休みに、リクエストすればよかった。
かからぬうちに終わらぬPOPソングを。
いつか、
If 君が隣にいるならば、
何もかもが、すべてが、上手くいくだろう。
If 君がそばにいるならば。

7
疲れて、黒鍵盤の上で休んでいたチョウ。
半音上がった白鍵を僅かばかり叩くと、
驚いたのか、飛び去っていった。
室内に死が鳴り響き止まぬうちに。
調べを知らせる為に、逃れるように
愛するように。

8
香港の街頭で大学で熱弁を振るっていた
彼女は凛々しく、時に険しい眼差しで。
沈黙を破れ!
正論を吐け!
このまま中国になっても良いのか!
だけど、ユーモラスな人。
僕たちは彼女の踊りが大好きだ。

9
私とは何だろう。
君がいない夕暮れ時のヒコーキ雲が連れてきた
夜に、切れかかっているネオン管のようなもの。
力を振り絞れ。警告を発せよ。
連れ去られた大都会のリズムに身を委ねて。
明日の思い出の場所まで届くように。

10
雪灯りのせいで見えた十字路。
恋人でも、
友達でも
知り合いですらもないけれど、
贈り物を持ち寄ろう。
今更、サンタクロースに何を願うというのか?
彼女がいなくなった場所に、冷たい、
恐怖と無関心を醒ます雪を降らせよ、と。
そんな事は奇蹟でも起きない限り不可能だ。
ならば幻視を。

11
視界の雪は未だに溶けぬ。
ティックタック、憂鬱な時間は降り積もる。
もともと楽しみも無いけれど。
ティックタック、空から降ってきた
寿命を全うしたがっている精霊たち。
彼女の情熱に触れて。
そう、不可逆的に。
午後のひと時が戻りますように。

12
灯火を頼りに氷雪で作られた迷宮へ、
出られなくなってしまったチョウ。
疲れたのなら進まずお休みなさい。
援軍が来るのを待てばよい。
壁も無くなってしまうだろう。
今だって君は、近しい未来を告げて、
羽ばたき逃れる事も出来るはず。
自由に、そのように、女神は人々を導く。

13
希望の壁って何なの?
彼女を取り囲む一切の障壁のこと。
迷い、恐怖、失意、憂鬱、裏切り、
憎悪、絶望、諦め、移ろこと、褪せること。
彼女と僕たちを隔てるもの、
そう感じさせるもの全て。

14
同世代の者達が守ろうとしている青春は、
昼の光を覚えているグラスの内に住み、
夜の景色が映した夢の中に溶けていく氷のようなもの。
周庭は困難と苦痛の場所に青春の光を見出した。
求めた先も果ても見えぬ階段を手探りで上り続ける。
つらく、険しく、厳しい。
心細く、薄暗い、つまづきそうになる。
それでも彼女の一生は祝福に満ちていると言おう。
踊り場毎には沢山の花束が置かれている事に、
彼女は気がついただろうか。

15
季節を忘れた春に、
失ったのかも良く分からぬ
A to Zを連れて。
喫茶店で一人、アグネスに対する暴挙に憤る。

16
大学にて。若い女はよく歌う。
春のうららに心を遊ばせ、
これから始まる幻想に別れを告げる。
周庭は読書に励む。時に踊る。

17
アグネス君は、
私のなくした過去。
僕達の未来。
光。
人々が幸せの形を保つには、
彼女の思いが必要だ。

18
チョウが衣を纏えば羽は傷つく。
飾り気の要らぬ瞳は、
どのように鏡に映ったの?
それ以上悲しまないで
雨の匂いを嗅ぎとった、
僅かばかり手の届かぬ所に。
捨て猫が路地裏で見つけたものは、
いつかの夏の日のデジャヴ。

19
あそこの時計の針の上の席に、
さあ、一緒に座ろう。
振られて持ち物を落としてしまわぬように。
でも、抱えていた気持ちを落としてしまった。
ぶつかった一時の衝撃が、
応じた種の発光を伴う場所。
霧のかかった長い夜に。
時針によって切り裂かれた隙間に、
星の輝きを探し出す労苦を慰める目的で創られた。

一周して、戻ってきて...まだ光っているとは。

20
瘴気漂う監獄の続きの庭で、
君は不安な夜を迎えているだろう。
脅され声を封じられようとも、
ふりかえり見た所の善行の徳は滅びぬ。
石と化す事は無い。

21
"忠誠を誓え"と言われ、
逃げ延びた先で、どうして
このような場所に咲いているのかもよく分からぬ、
一面の花畑に突然出会いたい。
そこでは寧ろ色褪せる言葉が役に立つ。

22
きっと愛される。
寝付けぬ朝に、手を伸ばした陰鬱な小説。
微かに文字が読める程の薄明りの部屋。
やはり今一度眠ろう。
それとも、話し声のような歌声が聞こえる方に出かけようかしら。
このまま闇夜の終わりに身を潜めたままでいようか。
バウヒニアの流離人。

23
飛んで烈火のごとく
入っていた。
僕達は真夏の目撃者だ。
美しかった。
ゆらめいて。ゆらめいて。

24
二十四回目のハッピーバースデー
これからもずっと。
自由を求める人々と共に歩もう。
いつまでも君は心の中で踊り続ける。
ハッピーバースデー
打ち砕かれぬその心に寄せて。

25
高層ビルから見下ろした
二人は途方もない事を考える。
香港の光と影。

思惑から外れた広告が、抑圧の中で、
諦めかけた人々の愛のかたちを写す。
届いたメールには封をしたままに
歩き疲れた家族の数だけ探し出そう、
民主運動の形。

26
海の嘆きが聞こえないか。
また一つの地平が失われた。
自由の風に帆を立てたあの日
僕達の計画。彼方に繋がっている人の事を、
決して忘れてはならない。

27
悲しみと希望と形が一つに見えた。
物言わぬチョウの軌跡。
光の無い所でも色鮮やかに
風が届かぬ場所でも身を任せるように
渋々と、夏の彼方に飛び去った。
またいつ彼女に会えるのだろう。

28
今年ももうじき冬の季節。
何枚も重着をして、しのがなければならぬ事になるまいか。
ただ、出国して欲しいと願う。
どこへではなく、どこかへ。
何を望む訳でもなく、何かを。
見守っていたい。
季節外れの蝶の話。

ひらり、ひらりと、雪をかわしながら
羽を濡らして凍らせて、
徐々に空から舞い落ちていくその様を。
落ち着いたその先を。
彼女が見た景色を。

29
路歩く人の影は赤く黒く。
熱気を失ったメインストリートのかけらを集めて、
君は今何を見ている。
マスクを外して、
閉め切った部屋のカーテンの音が耳に残る。

爆発と閃光。

戦争の終結と平和を
彼女と共に祈る。

30
カッコよかったね。
声楽隊が用意した、
応援の為の合唱をも届けられぬ速さで、
あっという間に走り抜けた命の輝き。
一直線に。旗がたなびいていた。
いつまでも僕たちの心に鳴り響くエンジン音。

31
悪夢。情熱を斜めに傾けて、闇の中の抗議。
ハンドルートによって示された終局を回避して、
繊細なる下僕を乗り越えよ。
麗しき落日の麓にかかった hello goodbye の行く末を見据えて。
君の色に染まった虹が待つ。
理念のワルツ。

32
太鼓を叩いてドンドンドン。
周庭頑張れ応援だ。
皆で叩いてドンドンドン。
一緒に周庭応援だ。

33
...
(戦禍に。無詩をもって非難す)

34
彼女を助けられずに悔しい。
報が届かずもどかしい。
西方の死刑執行人は狂おしい。
民主運動に関わる事が出来て光栄だ、と言った。
そんな周庭と時代を共にして誇らしい。

35
風も吹かぬ内に
花を散らそうとする者には罰を。
逃した香りが種子を運び、
因果の華が咲く。

36
辺りは十分に暗くなった。それでも、
悲鳴をあげながら己の刹那の役割を全うする。
殺戮によって営まれ育まれた人達は、
背中を見せる事も足元に崩れ落ちる事も許されない。
やっとの思いで立ち続けて、決められた場所に墓を掘り並べる。
結局の所、そんな彼の人生はドミノ倒しの如く。
遊び心は悪意と知る。

37
そして誰も居なくなった議会。
周庭という政治活動家と
ミッドナイトオーシャンへ。

steps.
波打ち際の足跡は、
埋め合わせるかのようにブルー。
見失って追いかけた先には、
砂に型取られたスクリーン。
ついに映し出された
僕達のデモクラティックLover.

38
理巡に抗い焼け爛れた春は晩秋に思いを焦がす。
過ぎ去っても尚、熱い自由を求めた季節の面影を昼夜に問う。
己の姿を探して旅立った風の行方も知れず。

アグネス・チョウという炎を。

もう一度思いを描く事が出来るならば。
共に満たされる。

39
雨降って地よ固まれ。
これから夏の本番も降ってくる。
レモンソーダの炭酸みたいだ。
ここも、あそこも、すぐに消えないでくれ
いや、消え去ってしまえば良いのに
あの中に消え入りたい
炎天下、香港に心が交錯する季節。

時の雨のスコール。

40
涙が大地を潤す前に、
渇きが鈍い愛情をもたらすのか。
あの日見た君は陽炎のように。

41
高貴な情熱の閃光によって、
民衆の鬱積は灰と化す。
未だ勢いを失わぬ残火の中に示された
在りし日の自由な香港。
気のままに風の赴くままに、
ゆらめいて。


(2023.5.8 記)

『真夏のクリスマス・イヴ』

天使だったら良かったのに。
でも君はきっと、Angel.
見つからないように、傘で隠してしまおう。
雨の外に連れて行っておくれ。
Angel.
見つからないように、傘で隠してしまおう。
だって、明日は真夏のクリスマス・イヴだから。
あれ、いないぞ。何処に行ったのだろう?
見つけた。ちょっと先を歩いていた。
Like an Angel.
駆け寄ってあと少し、
彼女に追いつくまで。